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妄想都市計画

戦国ネットワークサービス

はじめまして、よかったら絡みませんか、さようなら。
全てに終止符を打ちませんか?
ケータイSNS黎明期、20代も30代もネット初心者が溢れかえったあの時代。一番上手にSNSを使えていたのは私たち10代だと確信して言えよう。
思っていた「大人は本当につまらない」「大人はスマートじゃない」「大人は分かってない」
小ざかしいパイナップル坊やと、闇を抱えたがりわかめパンツ達はSNSの大人をそう捉えていた。
時は流れて時代は変わり、かつての古巣は閑散し、新しい遊び場にはおしゃぶりベイビー達が溢れかえっていたので「キッズスペースで遊ぶのはちょっと・・・」と考える7歳位の気持ちでSNS自体から遠ざかり始めたのが我々である。
運営側の配慮なのか、キッズスペースの近くにフードコートを用意されていたので、そこに腰掛け遠目にキッズスペースを見守ったり、フードコートで相席したかつての同胞と短い会話を交わすことは出来た。
まあ、SNSでの実権がよちよち歩きの赤子に奪われることも無かろうと、呑気にラーメンをすすっていたら、湯気でメガネが曇ってる隙に一瞬で景色は変わっていた。
キッズスペースはディズニーランドになり、中で遊んでた3歳くらいの子供はギターでメタルを早弾きしてる。そんな光景を目の当たりにすることになる。
冷や汗をかきながら「ほー、ほぉん…」と余裕を必死で装い、足を震わせながら夢の国を遠目にし、入場の段取りをする。
あの時見ていたイタイタシイ大人にはなるまいと固く誓い、鏡の前に立ち、おめかしをして、眉毛を整え、いざ行かんと王国へ足を踏み入れるも、入場券の買い方さえ分からず立ち往生。
どうにか潜り込んだ園内には人が溢れかえり皆仲よさそうに遊んでいた。
見様見真似で、アイスを買って近くにいた女の子にそれを差し出してみるも「はあ?」という顔をされ、側近の男に「グッズ付けてない奴がいきなりアイスとかマジねーから、まずはネズミの耳買って飴食べるとこからだろwww」と謎の注意を受ける。
ルールブックを探してみたもののどこにも売ってない。
通りすがりの優しそうな若者にルールを聞いてみるも「そこは感覚でしょ」と一掃される。
怖くなって、スマートフォンを開き「ディズニーランド 絡み方 初心者」などという恥も糞もない検索をかけても、出てくるのは本当に初心者向けのレクチャー。それを熱心に読み込んでいる時にふと、気がついてしまう。
こんなことをしにこの王国へ踏み入れた訳じゃない。昔の、あの時のように、自分が楽しめる、全てを把握できるような、この国の王様になれるような、そんな。

テーブルに腰をかけ、コーヒーを飲みながら園内を見渡してみる。
平均年齢は若く、みな楽しそうだった。
横から聞こえる若者達の会話に耳を傾けていると、瞬発的に面白いワードが耳に入り、コーヒーをむせてしまった。
なんてことだ。この前までまともに言葉も喋れなかった奴らの中に、こんな奴まで出てきているのか。
全てを失ったような気持ちになり、そのまま何も出来ず、只々コーヒーをすすりながら園内をずーっと見渡していた。
いつの間にか日が暮れ、夜になると若者達も酒盛りを始め、中央に焚べた大きな炎の近くでは男女が愛を囁き合っていた。
そうやって何日も何日も傍観だけを続けていると、いろいろな事に気が付いてくる。
一括りにして恐怖を覚えたこの王国も、よくよく見たらあの時と同じだ。
面白い奴がいて、プロフィールで好きなモノを羅列する奴もいるし、モテる奴がいて、歌詞を書いて黒歴史を更新し続ける奴、ナンパばかりしてる奴もいる。
ただ目に余るのは、昔のイタイタシイ大人の中に同年代も含まれていることくらいだ。
遠くにある城を見ると、王座に座っている者もある。ただ昔のSNSの王座とは比較にもならないほど豪華なその席では、マスコミがシャッターを切り続け、取材陣は列を作り順番を待っていた。
もうあの席は目指すことすら許されない場所で、この王国はさらに発展し、また新たな国も建設されるだろう。
だけどもう良いのだ、それはそれで仕方がないことだ。もう全ては終わった過去の話でこれからは関与すること自体少なくなるだろう。

彼は静かにネズミの耳を外し、コーヒーカップをゴミ箱に入れると、退場ゲートからログアウトして、パソコンを閉じた。
13階のベランダから見下ろすと、そこには公園があり、大学生らしき男女数人がジャンプした瞬間の写真を撮ることに熱中していた。
歳を重ねてシワが見えてきた口元には自然と笑みが浮かび、彼らの行く末と、現実で彼らと出会うことを楽しみにおもっていた。