妄想シネマ

妄想都市計画

呼吸の単位

 

 

 

 

僕にはどうにもわからないことがあった。

    

次停まる駅は大橋だと車両内にアナウンスが流れる。

電車に乗ってから2つほど大きく栄えた駅を通過したため、僕は満席になったロングシートのほぼ中央に鎮座していた。

スマートフォンを触ったり、手帳でスケジュールを確認すると、視界に「どこに売ってるんですか?」カラーの小さいズックがチラチラと入り込む。

そのわずか膝下からの容姿だけで、安易に老婆だとわかった。僕は顔を上げて初めて彼女の顔を確認した。

どこを見ているかもわからない目線と、形容しがたい造形物の様な質感の皮膚、口紅は唇の範囲を大きく超え、子供の書いた縁を無視した塗り絵の様だった。彼女のルージュはきっと太いのだろう。

その顔を眺めていると、僕と歳がそう変わらないサラリーマンが彼女に席を譲った。

そして彼は僕を見る。その表情が何を意味するかは分かった。

僕は今責められているのだろう。僕は老婆の事を考えていた。今日は何をしたのだろうか、どこから帰ってきたのか、もしくは向かっているのか。

足腰は丈夫だろうか、杖もカートもない辺り、自信があるのだろうか、人の体温は苦手じゃないだろうか、僕の尻の温もりが残るシートは嫌じゃないだろうか。

    

結局僕は終点の天神駅まで、腰を上げることはなかった。

    

     

夕暮れの大きな駅の雑踏の中に身を隠し、僕はカフェに向かった。帰社するべきなんだろうが、商談の成立を確信してカバンにいれた契約書は署名も捺印もないままで、言い訳の1つもないと帰れる状態ではない。

    

    

初めて入るチェーン店のカフェに着くと、注文カウンターは混雑していた。

思えば今日は朝からカフェインとニコチンしか体に与えていないので、なにかパンでも、と自分の番が来るのを待った。

    

客足は絶えず、僕の後ろに行列ができた。

やっと順番が回ってきたので、メニューに目を通すと、カタカナで書かれたパンは何が何味か全くわからなかった。全部素材とソースの味だけで構成されたメニューならいいのに。

理解できないメニューと、自分の後ろに並ぶ人たちが融合されて召喚されたカードは

アメリカン、一番小さいやつで」だった。

     

     

タバコが吸える2階へ移動する。

階段でコーヒーをこぼさず運ぶ能力は持ち合わせておらず、席に着いた時にはカップ受けの皿に溢れたコーヒーが溜まっていた。

灰皿を取りに行くついでに紙ナプキンを3枚取り、溢れたコーヒーを拭きながら考えた。

僕はこれのことを紙ナプキンと呼ぶけど、女性とこのカフェに来たとして、これをなんと呼べばいいのか。

ティッシュ」と言うには素材が柔らかくなく、「紙」と言うのも伝わりづらい。

「紙ナプキン取って来て」僕はそう言えるだろうか。

    

気付けばコーヒーも吹き終わり、カップの縁には溢れたコーヒーが熱で乾燥し跡になっていた。

丁寧にそこへ口をつけ一口目のコーヒーを飲んだ。

コーヒーの味はしなかった。ただ香りだけが口と鼻に残り、切れかけていた思考の力はプツンと切れて、僕はひたすらにタバコの煙を吐いてはコーヒーを啜った。

     

「よし」と口に出して、自分に鞭を入れるが効き目はコーヒーの様に薄い。

まず、なんで今日の商談が上手くいかなかったのかをぼんやりと考えた。

キツネの様な顔をした経理のタヌキの顔を思い出す。

「ごめんねー」の安い一言で消え去った、依頼されていた資料と契約。笑うキツネの顔には詫びのカケラは見つけられない。取りつく島もなく退出を余儀なくされ立ち尽くした。

     

     

反省は簡単で、キツネの言語もわからずに信用しすぎた自分のせいだとすぐにわかった。

     

この件に関しては考えるのをやめ、他の見込み客を探して、どうにか帰社した瞬間の処刑だけは免れようとファイルの中から免罪符を探した。

    

     

トイレに行きたくなったが、カバンの扱いに困った。

カバンを持っていけば、僕がこの席にいるという証明はテーブルの上の三分の一程残ったコーヒーと灰皿だけになる。

片付けられてはしまわないだろうか。かといってカバンを置いていけば盗られたら大変な事になる。重要書類だけトイレに持ち込むわけにもいかない。

悩んだ末、コーヒーを全て飲み干し、カバンを持ってトイレに向かった。

     

    

トイレのドアを開けると、僕は便器に座る中年の男性と目があった。

このトイレは個室で、便器は1つだ。仲良く並びションスタイルのものではない。

僕は中年の男性と目があった。

何も考えず言葉が先に出る「すみません」そう告げトイレのドアを閉めた。

     

ドアの前で待ちながら、昔逆の立場で同じことがあったのを思い出す。

僕が鍵を閉め忘れ、中に入って来た初老の男性は驚いていたし、僕も驚いた。

そして同じ様に僕の口から出た言葉は「すみません」だったのだ。

違うのは、初老の男性にその後トイレから出た際、鍵を閉めてないことを怒鳴られたことだった。

     

同じ立場になって思うが、そこまで怒るほどの不快感は無かった。きっとあの老人は、妻の口紅の塗り方が下手で虫の居所が悪かったのだろう。

目の前のドアが開き、中年の男性が用を足し終えて出て来た。

彼は僕ととても近い距離まで近づいて来て

「おまえさ、ノックくらいできないのかよ!」とまたしても怒鳴られた。

驚いたのは、次の瞬間彼は壁に叩きつけられ、その場にへたり込んだ。

自分でも何が起きたかわからなかった。ただ彼の胸ぐらを掴んだ時のネクタイの感触は右手に残っていた。

「あ、すいません」とまた謝ってしまい、起こそうと手を差し出したが、中年の男性は舌打ちと共に一階へと消えていった。

    

    

心臓の早い鼓動を聞きながら用をたす。

彼はきっと恥ずかしかったんだと思う。僕も同じことをした時、確かに恥ずかしかったし、それを怒ることで消化しようと中年の男性は判断したのだ。その判断の正誤は僕にはわからない。

席に戻ると空にしたカップと灰皿は綺麗に片付けられていて、もう席に戻ることを許されない様な気がして店を出た。

      

帰社する途中、ビルの谷間に沈みかけた夕日がとても大きく見えたので、写真に収めようとケータイのカメラを構えたけど、道の真ん中に立った僕を避けてる歩行者に気が付き、シャッターを切ることなく再び歩き始めた。

    

    

ただどうしても会社に戻るのが億劫になり、用もないのにビルの一階に入っているコンビニに入った。

いつもの習慣か、先ほどカフェに行ったことを記憶することもできないほどにバカなのか。缶コーヒーとタバコを買った僕は、コンビニの灰皿の横に立っていた。

     

     

買ったタバコをカバンにしまい、今まで持ってたタバコの箱を開くと、中にはまだぎっしりとタバコが詰まっていて、物の管理能力も無いのかと自分を責めた。

    

缶コーヒーを飲み、一呼吸置いてタバコに火をつけた。

そういえば、一呼吸は吸ったら「1回」なのか、それとも吐いたら「1回」なのか。

もしくは吸って吐いて往復したら「1回」か。

似た言葉で一息つくというものがある。あれは吐いたら「1」カウントか、呼吸は「吸う」という字が入るあたり吸わなければ反則なのだろうか。僕にはわからなかった。

    

幼少の頃、夜に眠れないことが多かった気がする。

周りの家族が続々と眠りに就く中、自分だけが取り残され天井の蛍光灯を眺めながら一人焦っていた。

冷蔵庫の擬音化しにくい音を聞きながら、周りと同じように上手く眠れない自分を恨んだ。

      

そんな日は決まって呼吸の仕方が分からなくなり、自然にできなくなる。

息を止めると苦しいから、人がご飯を食べるように、人が階段を登るように、僕は行為として息をしていた。

僕は何も出来ないのだ。人が自然に出来ることを、考えて、悩んで、自ら行動として所作に移らないと出来ない。

側から見れば、それは「出来ている」と何も変わらないのかもしれないけど、みんなモーターで動いてる中、同じ動きをあたかもモーターを積んでいるフリをしながら人力で動かしている。

    

20歳を超えても僕は未だ、今後も息をし続けられるのかということに不安を覚える。

     

     

目の前を過ぎていく沢山の人達へ尊敬と軽蔑が混ざった視線をねっとりと付けていた。

   

     

胸ポケットに入れたケータイが震え、電話に出ると先ほどのキツネが、僕のわかる言葉で「やっぱり契約したいんですが・・」と申し訳なさそうに伝えてきた。

キツネに今から向かう旨を伝え、印鑑の準備を少し高圧的にお願いした。

     

夕日を背に浴びながら僕は契約をもらう為再度駅方面に向かう。

ふと、前を歩く女性のカバンからハンカチが落ちた。

拾って彼女の肩を叩き「落としましたよ」と微笑んだ自分の顔を、僕はきっと知らない。

今の僕は何も考えず、老婆に席を譲ってしまうだろう。

 


    

 

10年前の天神で、こんなことを思っていた。30歳になったがまだ生きている。

     

 

愛してる

ドトールにてコーヒーを飲んでいた。

僕を挟むように女の子の塊が二つ
どちらも三人ずつ。

積を求めれば早いけど僕は丁寧におっぱいの数を数えた。全部で12個あった。

12個の丸い肌色をした塊の頂点に対となり各種それぞれの色素を使ってほんの少しずつ、いや極端に違うものもあるがそれぞれ赤を彩っている。

その小さな山を12個綺麗にテーブルの上に並べてみた

ちょうどコーヒーは時間経過によってグラスの外側に水滴を充分に貯めていたので僕はソレを指ですくい取り一つずつお山の頂上に水分をあげた。

まったく反応しない山もあれば微かに動く山や、艶っぽく声をあげる山もありそのわずかな違いを両耳に付けたイヤホンからじっくりと聞き分けた。

優しく遊んだ後には少し乱暴にしてみたくなるものだ。水を流して川まで作った砂の山を最後はめちゃくちゃに壊したくなるだろう、あれと同じだ。

デコピンはデコにしなくてもデコピンと呼ばれる奇妙な技だ。
片手でするよりもう片方の中指で引っ掛けを作ってあげるほうが威力は増す

中指に力を溜めて溜めて山頂に向けて一気に弾いた

それと同時にイヤホンから大きな声が上がったので僕はびっくりして少しマスターボリュームを下げた。

少しドキドキしたからコーヒーを一口飲んで胸を落ち着かせた。

そしてまた同じように指に力をこめて臨戦体制をつくる。

こういう溜めのある攻撃は溜めてる途中に威力が予想できる、今回のデコピンの構えはすごい。完璧だ。

一番大物であろう頂上の実に焦点を当てて渾身の力で弾いた。

やっぱり耳元からはすごい声が聞こえたけどボリュームを下げたので今度は音量的には問題ない

あ、飛んで行っちゃった。

今弾いたばかりの山の上にはなにもなくなっていて溶岩みたいにゆっくり血が流れていた

イヤホンからはあんまり聞いてて良い気持ちじゃない声が断続的に流れてきていた

ああ、ごめん。ごめんね、本当にごめん。泣きたくなるからもうその声をやめてよ謝るから。本当にごめんなさい。

たくさん謝った。謝るけど吹っ飛んでいったソレを拾いに行くことはしない。ドトールでそんなことしたら恥ずかしいから

やり過ぎた遊びをした後は少しおとなしくしたくなる、授業中に盛り上がって先生に怒られると途端に恥ずかしくなってソレを隠すために周りを見渡し口角を上げ精一杯抵抗する

そうだ紙を被せて神経衰弱みたいな遊びをしよう!これなら痛くないね

紙ナプキンを取りに行くために席を立とうとしたら左の女の子達のテーブルの上で、身長5センチ位の僕がバカみたいに両手を上げて踊っていた。彼女達は小さい僕の踊りを見てゲラゲラ笑っていた。


止まったら殺されるのかな。テーブルの上の僕は満面の笑みで涙をダラダラ流しながら踊っていた

心配になって右のテーブルを見てすぐに後悔した。

そこにはコーヒーグラスの中に完全に自分の力では動けなくなった僕がプカプカ浮いていた。


グラスの持ち主はもう僕のことなんか気にしてない様子でコーヒーと共に僕をストローでかき回しながらお喋りに夢中になってた

そうだ僕達は獣だ。

理性があるふりをしながら子作りが目的の行為を本来の目的を潰し「愛だから」って言い訳までして幸楽するような

動物の内蔵を生で喜んで食べるような理性のある人間だろ

火を使えるようになったら少しは文明に近付けるだろうか。少しは人間みたいになれるだろうか。


店員さんに頼んで大きなグラスをもらって12個の山を目一杯詰めてジッポのオイルをタプタプまで注いで最後に僕の唾液をいれてあげた。

タバコを吸うためにマッチを擦って火をつけた。先端をジリジリと燃やして肺胞全てに行き渡るように大きく吸い込む。

役目を終えたマッチをグラスに放り込んでタバコを咥えたまま席を立つ

耳元からは地獄からの声がずーっと聞こえていた

そのメロディに裏打ちのビートを刻んでダンスナンバーにすれば少しはテーブルの上の僕も楽しく踊れるんじゃないだろうか。

さっき飛んで行った赤いアレを見つけたので口に放り込み奥歯で思いっきり噛んだら。生の獣はやっぱり血の味が強かった。

 

 

human fake

あばずれリミッター

 

 

 

 

朝はひどく冷えていた。

車のフロントガラスにこびりついた霜を、興味本位で擦ってみた。

それは一晩で出来たにはあまりにも硬く、興味本位程度の力ではガラス部分まで到達できなかった。

自転車にまたがり通勤路を進む。

しばらくすると尻がぼんやりと冷えてきた。

冷気を感知した頃にはもう手遅れだ

 


(なんでだ。もうパンツまで水が染みてきている。雨は降ってない。サドルにも霜が?ゴムに霜って降りる?ああ、尻が寒い。サドル破けてんのかな、そもそもこの硬いサドルの中身はスポンジなのか。吸水性はどれほどか。尻の穴が冷えて死ぬみたいな話なかったけ。無いか。ヘイSiri尻が冷えたぜ、つってね)

 


会社に着いた。

冷え切った尻を触りながら思う。人を傷つけずに生きる方法も、それはそれで残酷じゃなかろうかと。

ハーフ オブ ハーフ オブ ハーフ

 

 

「後から後悔するよ」なんて助言を受けるような人間はかならず後から後悔するので「後から後悔しそうな人間」を捕まえて「後から後悔するよ」なんて言うことは無駄でしかない。

 


今日も貝類をポン酢ともみじおろしに浸けて食べ、ポン酢まで飲んで酒のつまみにしたことを胸焼けで後悔してます。マジ懺悔。アーメンクロイツ卐。卍ライン窪塚、IVOの処理は適切なお店にて。


はじめましてですか、久しぶりですか。
緑のラベルのキリンで迷子。こんばんは、毒虫です。


いきなり冷え込み冬の到来に対処が出来ず、乳首を勃たせ「いや、これそういのじゃねえし」と壁にカッコつけてます。


無駄に増えた間接照明で変な雰囲気になった部屋に女性を招き「ああこれ?省エネ」とロジスティックパラドックス100パーセントで世界線が崩壊しかけてますが、今日も日本は平和です。戦前の人達サンキューです!

 


昔から予知能力に長けているので「ああ、これは寒くなるな」と予知し、1ヶ月前にコタツを出しまして、もう50回はコタツで寝落ちしてます。
ギリギリ出社を繰り返す度に「コタツ  遅刻」でgoogle検索をかけますが、未だ対処法は探せていません。


誰かコタツから脱出する方法をご存知の方がいらっしゃればおすすめのAV教えてください。


AVで思い出したんですけど、すっかりAV女優のことセクシー女優って呼ぶの定着したじゃないですか?
なんかあれ、すごくなんかあれじゃないですか?


障害者のことを「障がい者」って書こう!って言いはじめた社会をみて「いや、それちゃうやろ」って思った小学4年生の頃を思い出します。

 


AV女優に人権はあるし、(いつも大変お世話になっております。)って仕事のメールを女性に送る時「大丈夫かな・・・」って思いますよね。


ね!!

 


とにかくセクシー女優って濁して、メディアに露出して18歳以下の目にも触れることが増えてるわけですよね?たまにテレビでみる綺麗な女性をAVで目撃した時の青少年の気持ち考えたことありますか?

 


そう。最高ですよね。

 


あまり無駄な文章を続けても、読む人達も疲れますし、いいね!も付かないので有益な情報を教えますね。


一人暮らしの男、漢?(漢aka GAMIには多分ラップで勝てます)の部屋によく忘れものしていく女性いるじゃないですか、挙げ句の果てにはぬいぐるみとか置いていく人いるでしょ。


アレの対処法教えます。


まず、ぬいぐるみに坐禅のポーズを組ませます。それを部屋に鎮座させ、こちらはドープネスタイムで待機します。


後は簡単、その女性が自宅に再度来た際に「なにこれ!?なんでこの子にこんなことするの!?」とまるでぬいぐるみを生命の如く扱い怒りをあらわにしてきます。


その時にザゼンボーイズの「asobi」をかけます。服を脱ぎ捨て一心不乱に踊ります。気がついたら女は部屋におらず、そもそもこのぬいぐるみは女が置いていったものではなく、自分で買ったものだと気がつき、鏡に映る下着一枚の自分をよく見つめながら「これがシュタインズゲートの選択か」と言えればもうあなたは立派な社会人。上司の理不尽に愛想笑いを振りまくのなんてミニゲームレベル。ヨッシーアイランドでセレクト押しながらXXYBAね。

 


現場からは以上です。

 


久しぶりにノンストップで書いたけど、明日は祝日。
どいつもこいつも身体をしっかり休めて、年末まで戦いましょう。


そしてみんな私と酒を飲みましょう。
その時はこの男に是非言ってあげてください
「後から後悔するよ」と。

冬の話

寒い。ウザい。キモい。

SNSを開けば不平や愚痴が言葉の限り横行するようになっている事を、改めて実感する2014年初冬。

私は暖かい車中にて、高速道路を走る車のハンドルを握っていた。

今日は確かに急激に気温が下がり、雪まで降ってきていた。

私は先程から、フロントガラスに突っ込んでくる雪を見ながら

「これは雪が突っ込んで来ているわけではなく、あくまで地面へ向かう雪の中に、この車が突っ込んでいってるだけ」と脳内に図式を書いて、何度も何度も、自分に言い聞かせたが、私の視覚は、どうやっても雪が車に突っ込んでくるようにしか認識できなかった。

この寒さの中、今日1日だけで、何回もの「寒い」という言葉を耳にした。

時は2014年。

寒いのなら車を買え。暖房を付けろ。それが無理なら布を着込め。防寒具を付けろ。

現代文明の中で今更天候に不満を漏らすなんて、なんて非効率なことか。

私は正しく生きてきた。正確には、正しいと思う行動のみを続けてきた。

そうやって生きてきたら、いつしか言葉をふいに呟く事は無くなり、必要最低限の主張と交遊で、私の社会は成り立っている。

後悔なんてしたことは無い。私は選んでこの道を進んできたのだ。今の私に、誰がどんな説教を垂れようか。

ただ、4年前の冬。彼女はこう言った。

「貴方は正しい。正しいから、私はすごく寂しい。」

私はあの時、言葉を探したし、解決方法を模索した。

ただ、長い間噤んでしまったこの口からは言葉は全くでてこず、私が選んだ答えは正論であり、短絡的でもあった。

寂しさの原因だった私は彼女の前から姿を消した。

こんな事を思い出すのはあの日も雪が降っていたからだろうか。くだらない。

ついこの前真月の夜、私は珍しく酒に浸り缶ビールを片手に近所の公園に出た。

ベンチに座って、丸く、いつもより濃い月を眺めようとすると

そこには先客が座っていた。

隣を失礼する旨を伝え、小さな礼儀で予備のビールを差し出すと、先客の青年は「未成年なんで」と無愛想に断った。

暫くの間、街の喧騒だけが流れ、気まずくなった私は青年に問いかけた。

「月を見てるのか?」

青年は小さな声で語り始めたが、その話は力なく、また無駄に遠回りをする言い回しで、プレゼンテーションとしては0点だった。

彼は感性を大事にしているらしく、別れた彼女への思いを忘れないよう、こうやって感傷に浸っているらしい。

そんなことをしてもなんの意味も無ければ、生産性も無い。彼が今、そんな無償の愛を1人こねくり回しても彼女には届かないし、もし届いたところで何も起こらない。無駄だ。

私も若い時は似たようなものだった。ただそんな自分の甘さ故に足の小指を無くしてから、自分に決別し、正しい道だけを選んできたのだ。

解決したいならさっさと忘れるか、取り戻したいなら算段を立てるべきだ。私ならそうする。

そう彼に1時間かけて私は論じた。

彼から出てきたのは「はあ」という肯定とは取りにくい返事で、これ以上は時間の無駄だと感じた私は公園を後にした。

青年のことを思い出すと、頭に痛みが走るくらい、彼女のことを思い出してしまうのは何故だろうか。

私は正しい道しか進んでいない。それは間違いないのだ。

ただ、彼女の事を思い出した私はタバコが吸いたくなったが、車の窓を開ければ、雪が吹き込み寒くなるのは目に見えている。

それでも私はタバコが吸いたくて、窓を開けた。

フロントガラス越しに見える景色は、何を理解しようとも、やはり雪が車に突っ込んで来てる様にしか見えず。

私は口から漏れそうになった言葉を抑えようと、急いで手を当てたが、指の隙間から声はすり抜けてしまうだろう。

頭の中は寂しい思いをさせてしまった彼女と逃げ場の無い自分自身でいっぱいになり、遂には声が漏れてしまった。

『寒い。』

僕はそう言うと自宅の窓を必要以上の力で閉めて、ベッドに転がった。

九州では珍しく年が変わる前に大雪と呼べる天候となり、どういうことか、もう一週間も降り通している。

最初は物珍しさ故か、世間は賑やかだったが、連日となると雪に耐性の無い地元住民は日常生活が困難になるほど対応が出来なくなっていた。

こうやって、世間の動きが悪くなると、世間と壁を隔てている僕は、少し気分が良くなる。

なんだかよくわからないけど、心が少し楽になるのだ。

先日仕事を辞めてからは毎日なにもすることがなく、ただひたすら自分の中に溜まった鬱憤を、文章に書き起こしたり、曲に変えたりしていたが、これといって出来上がったものは一つもなかった。

なので毎日は、ネット上に「呟き」という140文字までの少ない言葉をいかに綺麗に使い、趣のある発言が出来るかで僕の生活は記録されていた。

その記録は彼女と別れた日から初まる。

彼女との別れを言葉で誰かに伝えても、その本質は伝わらないのだ。

僕だって辛いこの感覚は、誰にも分からない大切なものだから、ギザギザしていても大事に今はしまっているのだ。

伝わらないといえば、最近この話を初めて他人にしたのだけれど、その男は先日自殺した。

男はアパートの隣人で、僕が目覚めるころ仕事を終え、部屋から見える駐車場に車を停めるので顔は何度か見たことがあった。

アルコールで睡眠薬を過剰摂取するスタンダードなその自殺は、翌日出社しなかった男が同僚に発見されるまでの間で見事に敢行された。

隣人という接点しかなかった彼と言葉を交わすことになったのは、満月の夜近所の公園にあるベンチに座り、1人公園で満月を見てる事を呟いて、皆の反応を待っていた時だった。

ビールを片手に現れた男は、未開封のビールを僕に差し出したが、未成年であることを伝え断った。

実に悩みもなく、情緒に欠けたその男に僕は自分の話がしたくなり、月を見てる理由にして、彼女との別れの話と僕が大事にしている気持ちを一通り語った。

一掃された。

男は「くだらない」と一言呟くと、説教とも取れる自論を展開してきた。

確かに男が言っている事は正しく、解決方法としてはなにも間違っていない。

ただ、男の話を聞いていて、男はなにも感じず、大事な気持ちに気がつかぬまま、歳を重ねてしまったんだと思えて、僕とは全く違う人種に思えてしまう。

聞き終わり、僕の口から出てきたのは「はあ」という、ため息とも取れる返答だった。

男は満足したのか、無言で立ち去り。僕は今あった出来事をネット上に呟いた。

男には分からないであろう気持ちを僕は大事にしていて、この気持ちをそのまま受け取れるのはやはり彼女しかいないのだ。

僕は、どうしても彼女にこの気持ちをわかって欲しくて、自宅のドアを開け、積雪の中、裸足で飛び出した。

ゆっくりと雪を踏むと、思っていた10倍ほど外は寒く、雪は冷たく、一瞬怖気ずいたが、雪に埋れて横になり、彼女に長い長いメールを打った。

最後に雪に埋まって紫色になった自分の足を写真で添えて彼女に送信した。

送り終えて、雪の上にケータイを放り投げると、間髪入れずにケータイが震え、そこに表示されたのは「宛先不明」のエラーメールだった。

この感傷を呟こうとするも、暫くして雪の水分にやられたのかケータイはうんともすんともいわなくなった。

急に寒くなって部屋に戻ろうとしたけれど、足の感覚は既になく、ちょっとヤバイ色になっていたので近くの公衆電話から僕は救急車を呼んだ。

迅速な救急隊員に保護された僕は足の治療をされながら、小指が壊死していて、切断になることを医師から宣告された。

何故雪の中裸足で居たかという至極当たり前な質問が僕になされ、救急隊員のことや、きっちり医師という仕事をこなしている人の前で、僕は急に恥ずかしくなってしまい、何も答えることができなかった。

病院から出た、足の小指を失った僕は、眼前に迫ってくる雪を鬱陶しく感じ、ふと立ち止まってみると、雪は迫っていた訳ではなく、落ちていく雪の中に僕が突っ込んでいただけだと気が付いた。

またゆっくりと歩を進める中で、これからは人に恥じることの無い、正しい道を進もうと、「寒い」と漏らしそうになった口をギュッと閉じ、マフラーをもう一巻き余分に巻いた。

 

三人称 心理描写無しのやつ

「すみません、時間外になってしまって」

 


男は鞄から申し訳なさそうに、自社エンブレムが印字されたA4サイズの封筒を取り出しながら呟いた。

 


「いいえ」と素っ気なく返事をした女は、居酒屋の薄暗い照明の中、封筒から取り出した資料に簡単に目を通すと、改めて封筒の中にしまい「ありがとうございます」と短く軽く頭を下げて続けた。

 


「明日は顔合わせ程度なので、簡単な説明になりますが、不明点で回答できないものは持ち帰りますので、改めてご連絡させていただきますね」

 


「その時間空けときますので、良かったら途中でご連絡いただ『生2つですねー!』

 


店員のわんぱくな登場にかき消され、男の主張はジャズ調の音楽の中へ霧散した。

 


「あ、じゃあ」と男の歯切れの悪い乾杯の音頭で2人はジョッキを軽く合わせた。

 


キン、ともチンとも違う、ジョッキ特有のゴッとした鈍い音を立て2人の夜会は始まる。

 


男は乾いていたのか、ゆっくりと、ただ止まることなく顎の高さを上げビールを飲み干した。

 


ジョッキを置くと同時に呼び出しのボタンを押し、即座に来た店員にジョッキを見せ「おかわりを」と用件だけを伝える。

 


その様子を女は見ながらも、特に感想を言うわけでもなく話を始めた。

 


「そういえば先日提案させてもらった、製薬会社から今日連絡があって、明日契約書をいただけそうです。取り急ぎメールでお送りしますね」

 


「ほんとですか?」と男は笑顔になり、ありがとうございますと言いながらジョッキを持つが、先程飲み干したことに気が付き、バツが悪そうに手を離そうとした。

女は「飲みます?」と自分のジョッキを差し出すが、手のひらを見せるジェスチャーで男はそれを断った。

 

 

 

「別にいいのに」と少し不機嫌に手元へジョッキを戻した女は、灰皿を手に取り男の前と、自分のところへ1つずつ配置した。

 


管楽器の音の中をかいくぐり、男のお礼が女へ届く。

 


「けど、本当にありがとうございます。正直薄いと思ってた案件なので決まったのは良かったです。流石ですね。」

 


女は「いえいえ」と謙遜しながらも「薄いと思ってたんですね」と頬杖をつきながらニヤニヤし呟いた。

 


男は慌てて言い返す「いや、あれは春山さんが正直キツイかもって言ってたから」

 


言葉を受けた女は眉間にしわを寄せ、目線を天井の隅に当てながら考えた。

 


「私言いましたっけ?いや、商談の感触良くなかったのは本当なんですけど、私言いました?いつ」

 


問いただされた男は腕を組み、考え込むように腕を組む。

二、三度首をひねる間におかわりのビールが届いた。

 


一口流し込んだ男は「御社に伺って打ち合わせした時じゃないですか?」と曖昧ながらも答える。

「いや上司の前で、そんな話口が裂けてもできませんよ、だいたい同席してるでしょ。2人で打ち合わせすることなんかない、です...し...」と尻すぼみな口調に、途中で何かに気が付き、2人とも口を小さく開いて「あぁ」と自分を納得させる様に細かく頷いた。

 


「タバコいいですか」との男の質問に、先程置いた灰皿を指でつついて女は促した。

 


鞄のサイドポケットを開けて、中を探すもガチャガチャとしただけで、何も取り出さず閉めた。諦め半分でポケットを弄るも、収穫はなく男は残念そうに再度ビールに口をつける。

 


女は黙って自分の鞄から、タバコを取り出し男の前へ差し出した。男は会釈をしながら一本抜き取る、テーブルの丁度真ん中にそのタバコを置いた女は自分の分も口にくわえ、ライターで男のタバコに火を付けた後、自分の口元へ火を近付けた。

 


「どうですか、最近」と女の漠然とした質問に男は「いつもどおりですよ」と当たり障りのない回答をする。

 


煙を吐き出しながら男は思い出した様に再度タバコの入っていない鞄を開けて探り始めた「そういえばコレ」とアイラインを女に差し出した。

 


「どうも」と受け取るも目線は男から外れない「コレ、サガシテタンデスヨー」と感情を抜いた様な喋り方に男は苦笑する

 


「こういう類のトラップは勘弁してください、気付けないから」

 


「承知いたしましたー」と女はまだ長いタバコを灰皿に押し消した。

 


見かねた男は話を仕切り直す「今って見込み3件ですよね、他社もあると思いますけど今期大丈夫ですか?」

 


「今、時間外なんで」と女は素っ気なく返す。

 


男は目をつぶり、鼻から一息吐きながら、呼び出しボタンを押す

 


「もうそのビール飲まないでしょ、どうするの」

その質問で女の表情はみるみる柔らかくなり、「おいしいサワー」とわざと恥ずかしそうに呟いた

 


扉を開けた店員に、男は生搾りと書かれた柑橘系のソレを注文すると、ネクタイを緩め、断ることもなくテーブルの真ん中に鎮座したタバコを咥え、女へ手のひらを見せた。

 


女がキョトンとするのも束の間、男は「ライター」と単語だけを発し、ライターを受け取るとタバコに火を付けた。

 


天井に向かい大きく煙を吐きだす男に女は問いかける「いきなり態度変えるのやめてくれません、こっちも段階踏まないといけないんで」言葉とは裏腹にテーブルの下ではパタパタと足を動かしている。

 


男は煙と共に発した「すみません、こちらも時間外なので。明日仕事でしょ、飲みすぎない様にしてくださいね」

 


女も呆れ顔で返す「明日のアポ、あなたの案件だけなので。破談になったらごめんなさいね」

 


「いや、それは。ね。違うじゃないですか、ごめんなさい。それお口に合います?嫌だったら違うのに変えますよ。」

男は焦って早い口調で弁明した。

 


にこやかになった女は畳み掛ける様に言う「口に合わないので、後はあげます。それより桃鉄しましょうよ。続き」

 


目線が泳ぐ男にトドメの武器を突き刺した

 

 

 

 


「彼女と上手くいってますか?」

 

 

 

「いつもどおりですよ」

男は負けを認め、生搾りとはなんなのか。と考えながらレモン味の炭酸を飲み干した。

 

 

 

 

 

 

続く