妄想シネマ

妄想都市計画

君の幸せに組み込まれる前に消える

休日の昼前。寝起きの口の中には昨日のビーフジャーキーが歯の隙間に住んでいた。
       
部屋の中には休日だというのに、せわしなく女が1人部屋の整備に勤しんでいる。
       
ビーフジャーキーを無理やり取るついでに歯を磨く。時間を間違った朝の挨拶が聞こえたが「んん」というこれまた返答として正しいかわからない言葉しか出てこなかった。
    
      
何気なしに今日の予定を聞いてみると「別に」という女優気取りの返答が帰ってくる。この女とコミュニケーションを取る事はできるけど意思の疎通をはかる事はできないんだろうなあ、という思いと共に泡を流しに吐き出した。
ものの試しに「これ何かわかる?」と俺は今吐き出した泡の中にある何色かよくわからないモノを指差して言った
女はソレを見てコメントもせずトイレに向かったので俺はソファに寝っころがりタバコに火をつけたが歯磨き粉の味が口内に残っていたので一口吸って灰皿に押し付けた。
        
この短時間でトイレをすませた女は至って変わらない無表情である。
      
ほっそい鶏ガラみたいな腕をつかんで思いっきり引っ張ってみた。本当に埃みたいに簡単に浮かんでしまったのでできるだけ優しく胸で受け取る
       
別に愛しくなったわけでも無いのにその壊れそうな細さで反射的に抱きしめてしまった
      
頭皮の1番毛根が少ない部分の空気を思いっきり吸い込むとわずかなシャンプーの匂いと人間らしい脂の匂いがした。
     
すこし欲情したけどこの女には過去三度行為を断られている。それも全て挿入の直前にだ。一度目は酒で酔った時。二度目も酒の力で
       
ああ。よく考えたら三度とも酒にかまかけての行動だ。はい愚か。唯一の救いはこの女がそれでも何故か今俺の家にいる事だろう。
      
腕の中にいた女が酸素不足を訴えたので開放してキスをする。口の中は俺のと同じ歯磨き粉の味がした、こいつも寝起きだ。
女が極限まで顎を上にあげる形でくるしそうだったのでその状態を三分ほど続けた後にぐるんと立場を替えてキスのみをを続ける。肢体を押さえて拘束してみたり髪の中に侵入して頭皮と耳に触れて。キスの途中で何かを見つけたので舌で自分の口内に誘い込んだ。奥歯で噛んだらわずかに海の匂いがした。朝ごはんにシーチキンでも食べたんだろうか。鶏ガラをつかんでからどれだけ時間がかかってるのかすでにわからなくなっていた。昨日就寝前にかけたタイマーで止まったクーラーは未だつけられる事はなく、締め切られた部屋の中はきっと暑いんだろう。
       
女の鎖骨に汗が溜まっているのを見て舐めたくなったけど唾液以外の体液まで摂取したら自分が飲み込まれてしまう気がしてやめておいた。
     
視線を移して、時計を見てみると既に2時を回っていたが特に驚きはしなかった。最悪、既に夕方なんじゃないかと思うくらいにキスを続けていたからだ
       
いい加減暑いのか、女は自分の汗を拭っては俺の頬になすりつけた。おかげで俺のものかどうかわからなくなった汗が顎をつたい、ふたたび女の鎖骨に溜まりソレをまた俺の頬に塗る。どんどんどんどん液体は混ざり遂に俺はそれを舌で包み込んでしまった。
       
それが合図になったのかキスをやめ、
くまなく首周りから首の裏まで汗を舌で拭き取った。人間は足りなくなった成分を取りたがる癖がある。1人暮らしをはじめたら急に煮物が食べたくなるのはそのせいだ。
       
認めたくないけどきっとこいつの汗を欲していたんだろう。嫌々ながらくまなく汗を飲んだ。
       
首回りは簡単だけどそれより下は服に覆われてるので難しい。難しいことを無理やりするのはあまり性分として向いていないのでやめた。
        
その代わりに自分の右足を女の両足の間に強く押し付けそしてそのまま自分の頬から水滴を取り女の唇に乗せた。
         
唇の上の水滴を舐め取り俺の汗を摂取した女は
、まるで人間みたいな表情をしたので俺はものすごく驚いた
          
びっくりしすぎて誤って女の汗まみれの頬を撫でながら名前を口にし
      
        
       
けたたましくチャイムがなった。
         
      
部屋の壁についてる古いタイプの受話器からドア前の人物と会話をする。
        
小説みたいなタイミングだねって笑いながら女に問いた
      
     
「佐川急便なんだけど、俺は玄関にでて対応するか、それともこのまま無理やり挿入しようとしてお前が助けを求めるじゃん、佐川が入ってきてあのたくましい腕で俺を殴ってさ、警察よばれ・・・」
       
「前者」
         
話の途中で答えが返ってきたのでおとなしく汗まみれのまま対応した。
       
新しいヘンプシューズが届いたので俺は嬉しくて家の中で履き、出来もしないタップダンスを踊っていたら目で怒られたので靴棚に綺麗にしまった。
        
女はクーラーを付け室内の気温はぐんぐん下がりはじめた、それと同時に室内の清掃は再開されててまるで午前中に戻ってきたみたいだった。
        
洗濯物をたたみながら一枚タオルを無言で投げてきたので汗を拭いた。
        
このタオルは降参の意味なんだろうか?疑問に思い何かを確かめようとしたけどだっさい言葉しか思い付かずに口からでたのは
「朝流しにあったさー、歯磨き粉まみれのアレなんだったかわかる?」と、また女の機嫌を損ねそうな質問を出してしまった。
        
       
女は無表情で俺に歩み寄り、はじめて自分から顔を近付けキスをした。
         
唇を離すとにっこりと微笑み、そのままトイレに向かう
       
      
口の中に残されたのは彼女の唾液とヨレヨレのビーフジャーキーだった。
       
        
俺はそのビーフジャーキーを呑み込んで、たった今彼女の口に返したシーチキンの末路を案じる。
         
トイレからは俺の名前を呼ぶ怒声が聞こえた
               
挿入もしてないのに時計は三時半を回っていて少し笑った