妄想シネマ

妄想都市計画

拝啓、仕事終わりの佐賀から福岡にかけて

初秋の早漏
朝の空気に爽秋の気配が感じられる頃となりました。お風呂上がりなんか外気でちょっとおちんちんが縮みます。
ご無沙汰しています。貴方様におきましては、変わらずお元気で秋雲を見ながら「ああ、職場に隕石でも落ちないかなあ」なんて思われているのでしょうね。
毎度毎度私事にはなるのですが、社畜というものを5年間続けてみましたが、どうやら私には社畜の資質があるようです。
これは一概に、思春期を家畜同様に生きてきた成果と言えるでしょう。
ただ私も26歳になりました、アラサーという言葉を使うにはまだ30歳の自分は見えていませんが、そろそろ未来の自分のことも大事にしながら選択や自慰方法を考えるべきでしょう。私の自慰方法は大きく体に負担がかかります。
営業とは合法的な詐欺師だとはよく言ったもので、昔から口達者なネクラの私も近頃は立派な詐欺師として日々を奮闘しています。
会社というものは営利組織なので、なにかしらの利益を確保する必要があります。それが顧客のニーズに合えばいいのですが、私の仕事はニーズの無いところに無理やりぶち込む言わばノンケにホモセックスを強いるようなものです。
それでもノンケがホモに目覚めてくれればいいのですが、一晩限りの関係を後悔されてしまえば私としてもホンモゥではありません。
そろそろ人の為になる仕事を追求したいなあと、転職活動をしている次第です。
お仕事は順調でしょうか?どういった仕事をしてらっしゃるかは検討もつきませんが、どんな仕事でも少しは誰かの為になるということに気が付きました。法を犯さぬ程度に頑張ってもらえると幸いです。
仕事とホモの話が続きましたが、趣味の方も最近また活発化しております。
一時期離れていたサブカル系等も、ディスコミュニケーションという漫画で再燃し始めました。ゴトウユキコさんや、押見修造さんの思春期サブカルに改めてハマっています。
ギターは才能が無いのでしょうね。久しぶりに人前で歌う機会がありましたが、小っ恥ずかしくなってしまい、しゃべり倒して3曲の予定を2曲に変更して歌いました。途中おふざけでやった即興の「夏の思い出」が一番うけたように思います。
最近本読んでますか?音楽は聴いていますか?連絡手段はありませんが良いものがあれば手紙に書いて、まるめて捨てて下さい。
朝夕は肌寒くなってきていますので、外出の際はできれば服を着てくださいね。
正直に言うと今高速を運転しながら書いているので多少の誤字はご勘弁下さい。
「ああ、職場に隕石でも落ちないかなあ」なんて思ってしまう事があれば新海誠の「君の名は」を見に行ってください。「隕石あかん!!隕石はあかん!!」ってなるはずです。
それではまた、私はもう少し北へ走ります。

拝啓、夜行バスの車内より

あけましておめでとうございます。

「今年も」宜しくなんて言ってしまうと、じゃあ去年宜しくしたのかよ。なんて事になってしまいます。

去年一年あなたと会ってなんかいないし、連絡すらほぼとっていませんが、年始なので大きい声で言っときますね。あけおめことよろ!!
年末年始はいかが過ごされましたでしょうか。Facebookに掲載される華々しい年越しとは対極にいるのでしょうね。私もそうです。

日本人は節目を大切にする農耕民族です。ギャルもギャル男も例外ではありません。

彼らが中指と薬指だけを曲げた、狐の影遊びに似た手を高々と空に掲げ「うぇーい!」と言うのもそのせいです。だから嫌悪感丸出しの目でその子達を見ないであげてください。彼らもまた日本人なのです。

肩がはだけた謎の着物を着たギャルが居れば、優しくちゃんちゃんこを羽織らせてあげてください。彼女たちの目玉は何故か青や黄色になってる事も多いですが、彼女たちもまた、助産を自力でしていたババア達の血を引く農耕民族の女なのです。
いつもの如く、私事にはなるのですが、今年は意気揚々と、鴨と少し高い蕎麦を買い、実家に帰り、鴨蕎麦を作ろうと意気込んでいました。長男の威厳を見せつけるためです。まあ案の定、年越し前に睡魔に負けた私は白目を向いて家族に見守られながら年を越したらしいです。ほんと、はっぴいにゅういやあですよね。

季節はだいぶ冷え込みを見せ、世間様では風邪も流行ってるようです。余談にはなりますが私の姉はカンパチの食べ過ぎで去年も今年も寝込みました。

風邪とカンパチの食べ過ぎには十分注意をしてください。

今年はどんな一年にしましょうか。

大きな怪我や病気をせず、平和な一年にする事もすごく大事です。

ただ私達が持っている、残り僅かな自由の時間を有意義に過ごすためには、その平和を打ち砕く様なトラブルや死にたくなるくらい恥ずかしい出来事が在るべきだと思います。

生きてる実感を我が手に掴むため、たまにはサバイバルしてみましょう。将来を見据えて仕事をして、たまの休日にはホームレスと友達になってみましょう。

どうかあなたがそんな一年を過ごせる様、心から願っております。

今年も何卒宜しくお願い致します。

拝啓 暖かい11月下旬より 序章

お元気でしょうか。暦通りに防寒対策をしても、一向に寒くならないので、冬物を持て余してはいないでしょうか。それとも季節に合わせて服を変えることすら煩わしく、四季の流れすら、あなたを置いていくような気持ちになっていませんか。そんな時は湯豆腐を食べてみてください。ポン酢で食べると美味しいですよ。
手前ごとにはなりますが、25歳にして、本格的になにと戦っているか分からなくなってきました。

もしかしたらなにとも戦っていないのかもしれません。

しかし私は日々の中で、間違いなく苦しみ、もがき、たまにお湯の温度を間違えて大惨事になったりするのです。

この苦悩が周囲からの影響で無いとすると、生きる事自体が苦しいことである。そういった結論にいきついてしまいます。

しかし私は時に確実に安堵します。

それは休日の朝、公的に与えられた休みの時間が目の前に広がっている時です。

私は改めて毛布に包まり、全てから逃げ出すように丸くなります。

こう書くと、じゃあ仕事をしなければ苦しむ事はないんじゃないか。そう思うかもしれません。

しかし働いていなかった時のこの時間は絶望でしかありませんでした。

社会の目や友だちからの評価が恐ろしくてしょうがなかったのです。

なぜなら私には、ある程度の自尊心が存在していました。

それなら、自尊心さえ捨ててしまって、誰からの評価も、愛情も憎悪も断ち切ってしまえば。

そうやっていると、ひょこりと顔を出す者がでてきます。もう一人の自分です。

彼、もしくは彼女は、あなた自身の好奇心であり、知性であり、時に可笑しく、時に凶暴で、時に優しい存在です。

私は彼に名前を付けました。

水溜りを避けるように

判断判断判断判断判断判断判断判断。

 

 

目をあけて、前に進もうとすると無限に広がる判断地獄。
私はいつでも間違わない様に、時に慎重に、時に己の勘を信じ、進んで来た。
結果振り返って見ると、私の足跡の下にはミス!ミス!ミス!と綺麗に並んでいる様にも見えたが、見ていてあまり気持ちのいいものでも無いので目をつむり、無いことにすることもしばしば。

 


音ゲーをしててミスが続くと中断するのと同じ感覚だ。
ただ一切の記憶を忘却し、また眼前の判断地獄を今から走り出そうものなら、なにも知らない地雷原を走り抜けるのと同じこと。
我々人類は他の動物よりも優れた学習能力を持ち、この地球上を支配して来た。
それが何から培われるか、そう、それが経験というものだ。

 


ただ振り返って見る自分の足跡の下に、やはり何度見てもそこにある大量のミスの二文字。
私がしっかり経験から学習し、優れた生物として判断をしてきたかと言えば甚だ疑問が残りすぎて、偉そうに講釈なんぞ垂れていれば、神様とかに怒られそうではある。だが、しかし、あえて、今回はそこらへんは棚の上に全て置いておこうと思う。棚の上に置いて置けるスペースが無いのなら棚の中にしまっておけば良い。

こういった話をする時に必要なのは事例である。


ありもしない架空の話を例に出し議論をするなど、居もしない怪獣を倒すための武器を作る様なものだ。
心苦しくはあるが、ここはあえて半生を振り返り、ミスという文字の上に痛々しく置いてある、良く言えば「思い出」悪く言えば「事故」である話を引っ張り出そうと思う。ただ今回はこの事を「事故」として処理する。お願いだからさせて欲しい。

 

あの事故が起きたのは2年程前、私がふわふわ空中を飛びながら体だけ大きくなった後「社会」という名の、マキビシが大量に散らばっている地面にようやく足を付け、血まみれになりながら1年が過ぎた時の話だ。


私はきっと寂しく思ったのだと思う。
一度しか会ったこと無い異性に対し、同居を申し込んだのである。


ふわふわ飛んでいた頃は俗世から一定距離があるものだから、それを眺めつつ「なんだか大変そうだなあ」なんて思いながら、1人思想を深めることに没頭できていたし、それを他人へ共有することで満足感を得ることもできていた。
しかし上記に述べた通り、いざ舞い降りた社会はマキビシだらけであった。
一見マキビシが無い安全地帯もある様に見え、そこに助けを求めて走れば、大量の落とし穴が掘ってあり「誰だ!こんな危険な道ばかりつくったのは!」と声を荒げても、一様に皆視線を逸らし「さあ」と口にするだけであった。
しかし一定期間その状況に身を投じれば、もうふわふわと飛ぶ方法を忘れてしまうのだ。それどころか、たまにふわふわ飛んでいる、かつての
同胞を目にしても「あいつはまだふわふわしてるのか」と地に足を付けた自分を誇りに思うかの様な錯覚に陥ってしまう。地についた足の裏を見れば、やはり大量のマキビシが刺さっていて血はとめどなく流れていた。
そんな私が立派なソルジャーとして、足の裏がカチカチになり、新しく舞い降りた新人達へ「洗礼だ!」とマキビシを投げつけていた時、ふと我に返ってしまった。
「私は誰だ」
記憶喪失になった人間が初めに発する、スタンダードな発言として知られるこの言葉を、深夜の誰もいないオフィスで私は呟いた。
恐ろしくなりトイレに駆け込み、鏡を見るとそこには完全武装した社会のソルジャーがいた。
ふわふわしようにも、全身に付けた武器と防具が重過ぎて、どうしようも無くなっていた。
その日私は、よーーーーく考えた。
考えに考えて、「これはまずい」と、そう思った。

このまま進んでも、何か問題があるかと聞かれれば、そうでもなかった。
ただ今の状況を誰が望んでいるのか、当事者である私が望んでいないし、お母さんは「生きてりゃいい」そう言っていた。

そして私は、助けを求めたんだと思う。これが「事故」の引き金である。

家に帰ってとりわけ早めに、私は奴に電話をした。
「なあ一緒に住まないか」
もちろん一秒もせずに悪態を隠せない返答が来た。
「はあ?」
である。文字に起こすと可愛い「はあ?」も、この世にはある。
ただあの日私が受けた「はあ?」は悪意の全てが込められた様な、全てに濁点がついた様な、そんな「はあ?」だった。
しかしそんな事は想定内である。
私は、即座にこの話の趣旨を説明することにした。


・この同居は恋心に付随したものでは無いこと
・きっとその生活が楽しいこと
・2年内に、私に好きな人ができたら費用は全て持つ代わりに同居解消、逆の立場なら好きに出て行ってくれて構わないこと。
・もし2年一緒に生活ができたら、恋心がなくても良いから、よかったら結婚して欲しいこと。
・そもそもこのイベントが必要不可欠なものじゃ無いことは分かってるけど、もしここでしなかったら一生後悔すること。


返答はもう覚えていない。ただ覚えているのは全てにおいて却下であり、2人でこれを実現する為、方法を模索することは一切なかった。

この話をする際、彼女の説明をする必要があると思うが、あえてしない。彼女への興味と、尊敬を言葉にするととても安っぽくなるからだ。
自分で有り続けたい自分を続けることが、もう一人じゃ限界だった様に思う。
私を取り巻く社会はあまりにも凶暴で、ふわふわしながら戦おうものなら瞬殺されてしまいそうだった。
だからといって、このままこれを続けてしまえば、きっと出来上がった私は、もう、私ではなくなってしまう。それが恐ろしく、また、寂しかったのだ。
だから彼女に助けて欲しかった。彼女が私を見ていてくれることが、当時の私を、戦いの中で保つ唯一の手段だったように思う。
私の自惚れだったのかも知れないが、彼女もまた、そうだろうと思ったのだ。

この話が終わり、現実には起こり得ないと決まってから少し経ち、私のせいなのか、彼女の意思だったのか、とにかく私の人生から、彼女は消えた。一番興味を持っていた人間を封印したのだ。

この後の数年を書く気は無い。
ただあの日あの時、私は私の判断で彼女を消してしまったようにも思う。
なぜなら彼女が消失した今の状況を、当時なんとなく予想していたからである。
「この話が、もし実現しないなら、後は普通に生きよう。そしてたまに後悔しよう。」
私は確かに当時、こう思ったのだ。Twitterに書いちゃう程だ。よっぽどだ。
そして私は、夏と冬、感性が極まる季節になると、やはり決まって彼女の事を思い出す。
ただ一つ言えるのは、彼女と住めなかった事を、実は後悔していないのだ。
正確に言うと、住まないという判断を下した後の道を進むにつれ、私は後悔ができなくなった。
もう、彼女に興味がなくなってしまったのだ。
私はいまでも足の裏を血まみれにしてるのだと思うが、もうそれすら分からないし、鎧を全て脱いで、武器を捨ててもふわふわする方法を忘れてしまった。
ふわふわしてる人間を見た時に、確実に自分を誇りに思うようになった。
私が後悔しているのは、自分がなりたくなかった人間になったことに対してだ。
なってしまったものは仕方ない。もう戻ることも多分許されない。
ただ私にできることは、もうこんな判断だけはするまいと、今は反省している
しかし水溜りを避けるように、避けたつもりで、また違う水溜りにはまってしまうのだろう。

カムトゥルートゥルードリーム

オープンの札を掛けたドアが開き、暖かい春の空気が店のなかに流れ込む。


私は、突っ伏して寝ていたレジカウンターから頭を上げて、一度咳払いをして、喉の調子を整えてから「いらっしゃい」と呟いた。


店に入ってきたのは、まだ若い青年だった。歳はこの前19歳になったばかりで、大学の1回生だ。

私は彼を知っている。彼が欲しいものも知っている。


おどおどしながら彼が私に聞く
「あの、ここは何の店なんですか?」

私は人との会話が大好きで、簡単な言葉のキャッチボールを嫌う。私は私の言葉で彼に聞き返した。

「まず見てもらえば分かる通り、商品の陳列に種類訳などされていない。中古の物もあれば、新品の物もある。君はこういう雑多な店を、普段なんと呼んでいる?」


「・・雑貨屋、ですか?」


分かってるじゃないか。彼が導いた答えを、私は受け取った後、煙管に葉を詰め火をつけた。


私はこの店のレジカウンターに突っ伏して寝ることが多い。

その時夢を見るが、登場人物は私では無く、多種多様な人々の物語であった。

眠りから目を覚ますと、決まって私の店には、商品が一つ増えているのだ。

店を見渡していた青年がまた私に問う。

「雑貨屋なのは分かったんですが、こういった片方しか無いハイヒールも商品なんですか?」


それはある女性が16歳の時に初めて買ったハイヒールの片方なんだ。

綺麗な人だぞ。お前みたいな若者はおそらくすぐ引っかかって、酒を奢らされるハメになる。

「そんなこと無いですよ」と青年は笑顔を見せた。

何を買いに来たのか青年に問うと、彼は曖昧な答えで誤魔化す。それと同時に古びたうちわに手を伸ばす。


そのうちわは、女性が照れ隠しをする時に、恋人の顔面に風を送る用の物だからお前には必要無いと青年に説いた。

青年は怪訝そうな顔をしながら、私に問う。

「さっきからなんで一つ一つの商品に使い勝手とか生い立ちがあるんですか?」

純粋な疑問と言うよりは、私を深く疑った質問だった。


やれやれと、私は青年を椅子に座らせ、コーヒーを入れてやることにした。

「この赤いマグカップは本当は2つで一つなんだがな、片方はあまりにも深いところにあって、私の所には一つしか来なかったんだ」


青年は疑問符をさらに増やし、少々怒り気味で何かを言おうとしたが、先に口を開いたのは私の方だった。


iPhoneの中のボイスメモは今でもたまに聞くのか?」

彼は2秒ほどフリーズした後、上ずった声で「なんのことですか」と小さくとぼけた。


隠さなくても良い。君の物語は大変面白い物だった。当の君はそうではなかったようだがね。まあその歳から『女なんてろくなもんじゃ無い』なんて思うもんじゃ無いぞ

そう言うと、彼は見る見る間に下唇を前に出して、目を瞑り、その直後に、堤防が決壊するかの如くワンワンと泣きはじめた。

物語なんてほんの一片でしか無く、目の前の彼は私が知っている様な捻くれ者では無く純粋な青年でしかなかった。


私は彼に何があったかを1から聞かされたが、その物語はもう見たことがあるので、ただただ「うんうん」と頷くだけだった。


ひとしきり話をして満足したのか、青年はコーヒーの例を言い、何も買わずに帰っていった。


一人になった日が暮れた店内は少し冷えるので、暖炉に薪をくべて、火をつけた。

レジカウンターに戻り、彼が最初必要としてたであろうシャンプーをカウンター下から取り出した。

もう彼には必要無いだろうと、シャンプーをワンプッシュすると、店内は、ホラー映画が好きな女の子が持つ、髪の香りで満たされた。

 


「さて、また次の物語を見ようと思って眠りに着いた所で、この夢が終わったんだけどね、だから何が言いたいって、この世界も誰かの夢なんじゃ無いかってこと!」

「他にも言いたいことあるでしょう?」


「だからこの夢見てたら完全に寝坊して、しまって、しかも君に伝えようと思って忘れないうちにノートに書いてたらすごく時間がかかったよってこと!」


「それで?」


「だから、デートに遅刻して本当にごめんなさい。許してください。」

「まあいいよ、今日君の夢を見たの。君と会ったのは大学だけど、私の中学校に君がいて、授業中に考えた話を休み時間に君がするの。あまりにも長すぎて15分の休み時間が潰れちゃって私は起こるんだけどね。」

「僕はどんな話を君にしたの?」

 

足がすごく速い、男の子の話。

すごくはやい

彼は足がすごく速い。

元から足がすごく速い訳じゃない。


小学校2年生の時にかけっこでたまたま1番になった。

あんなもんは、どの組み合わせかで順位が決まるので、純粋な足の速さはあんまり関係無い。

しかし彼は褒められてしまった。

1番の美少女ってわけでも無いけど、皆より少し大人びていて、綺麗な顔立ちの、人を上手に褒めてくれる女の子から

「足、速いんだね」

って笑いながら。


それから彼は、走る為だけに生きてみた。

彼女に褒められる為に生きてみた。

そしたらすごく足が速くなった。


10歳の頃にはもうすごく速かった。

だいたい、大阪~東京間を2分切る位。

 


すごく速い。

 


中学校の徒競走とかは、もうぶっちぎりだった。

ぶっちぎりなんてもんじゃない。


彼は彼女に良いとこ見せようと、絶対1位が取りたくて、ちょっとフライングしてしまう。

「はい、やり直し。」って言われる前にはゴールしちゃってたくらい彼の足は速かった。

しかしその後、ちゃんと一位になって

ちょっとまた大人になって、なんか見てるだけでドキドキするようになったあの娘に聞いてみた

 


一位だったよ!見ててくれた?

 


彼女は言う


「ごめん、速過ぎて見えなかった。」


彼は落ち込んだ。


あの子からはあんまり褒めて貰えなくなった

なんか周りの大人とか、どっかの研究所の人達からたくさん褒められたけど

どうでも良かった

あの子に褒めて欲しいのだ


彼はどんどん速くなって

歳を取るスピードもなんか早くなってきた気がした

僕が足が速い方だからかなあ、と少し心配したりしていた


成人式を迎える日、彼は2時間くらい寝坊した。

まずいまずい、ってバタバタ準備をして

慣れないスーツを着て

車で3時間半かかる道を2秒で走った。


スーツのズボンが半分破れて、彼だけ半ズボンで成人式にでた


あの子は成人式に来てなかった。


いろんな友達に聞いたら、あの子は大きな病気になって、今日手術をするらしい。


なんで誰もお見舞い行かないんだよ、なに成人式とか出てんだよ、いや、僕もだけどさ

彼は怒った、そして聞いた

 

「どこの病院?」

 

 

 


アメリカ」

 

 

ちょっと萎えた。

 

アメリカかぁ・・

いやあ、アメリカぁ?


いや行くけどね。彼の答えなんて最初から決まってた。


彼はすごく速い。


しかし、今回は今までで1番速かった。多分彼自身も結構無茶をしたと思う。


そしたらなんか変な感じがした。だけど彼はあの子の事だけ考えてたからあんまり気にしなかった。


そしたら一瞬で病院に着いて、彼女の病室に行った。

スーツはもうボロボロで、革靴は血まみれだった、うんこも踏んでた。

お見舞いきたよ!

って言いたかったけど、すっごく息切れしてて言葉が上手く出て来なかった。

女の子は肩で息をする彼の目を見たら、なんて言葉が欲しいのかすぐ分かったんだけど

女の子も彼の姿を見て、笑いながら泣いてたら、上手に喋れなかった

 

息も整わないまま、彼は頑張って喋る。

「き、きょー、しゅ、しゅじゅちゅ、だ、よね?」


手術は普通に噛んだ。


彼女は不思議に思って涙も止まった。


「手術明日だよ?」


彼は考えた。

ん?今日手術で、あれ?明日?

ああ。なるほど。


「ごめん、時空超えてた」

 

 

 

「んでね、彼女はやっぱり泣きながら笑って『足、速いんだね』って彼を褒めてあげるの。そんくらい俺が足速くなったら結婚しようぜ!」


「長えよ、休み時間にそんな超大作持ってくんなよ!私の15分休憩を返せよ!」

「いや結構頑張ったよ、この話を休み時間だけでお前に話すの」


「喋るの、速いんだね」

 

そんな14歳の2時間目終わりの休み時間中の話。

 

ガールガールミッドナイトタウンガール


ハイヒールを初めて買ったのは確か16歳の時だった。

 


こういう夜にはなにも起きないものだ。

こういう夜がどういう夜かって聞かれても、説明するのは難しい。

多分私しか分からないし、多分みんな知っている。ただただこの感覚を共有する術を私は持たない。

雨も振っていないのに湿度が高く、太ももとベッドシーツが擦れる感覚が気持ちがいい。部屋の窓を全開にしてパンツとキャミソールだけの格好で金曜ロードショーを見ていた。

先程風呂から上がった時に寝間着用のショートパンツを履こうか一瞬迷ったが、こんな布面積の小さなズボンになんの意味があるのか、一人でいるこの部屋の中で私は答えを出せそうに無かった。

先程ネットで知り合った男からメッセージが来た。

正確には先程から何度も何度も私の写真を要求するメッセージが来ている。

男は私を巧妙にSNSからプライベートメッセージへ誘導し、私の写真をもらいつつ、必死さがあまり伝わらないように体の写真を求める。

仮にも同県に住む人間にこんな性欲丸出しのログを残して恥ずかしくないのだろうか。

私は彼の勇気に敬意を払い、律儀にも順を追って過激度を調整しながら写真を撮っては送ってあげた。

彼が自分の誘導能力を過剰評価するくらいに、恥じらいつつ、要求の8割程度に応えてみたりと、目的のよくわからない遊びをしているうちに彼の要求もエスカレートしてくる。

最新のメッセージには「◯◯も興奮してるんだろ?」と高圧的に書いてあった、確認の為股に手を伸ばすもイッツライク砂漠。残念な彼が可哀想になり、私はまた嘘を付き、彼の自称マグナムを写メで送るよう要求してみた。


そこで彼の返信は途絶えた。

彼のマグナムがアスパラだったのか、彼が自分の陰部を他人に送るのは危険だと察知できる程度には常識人だったのか、はたまた彼の性欲が臨界点を突破して宇宙の彼方へ木っ端微塵に消え去ってしまったのか確認するほど興味は無かった。

彼の返信が終わると共に最後のウイスキーがそこをついた。

冷蔵庫にビールがあるが今更つまみもなしにビールに戻るのも億劫だ。焼酎を割る水も無いし、梅酒は昨晩飲み干した。

財布を見ると2000円。私はそそくさと化粧をして、髪を巻き、服を着替えた。香水をいつもの5倍振る。


異常な匂いにアホが寄り、白い肌にはアホが近付き、巻いた髪にはアホが勝手に絡まるのだ。

準備が終わり、昔友達からもらったすごく恥ずかしいBL本の1番過激なページを開いて玄関の廊下に置いた。これは私なりのおまじないで、結構効果がある。

私は高いヒールを履いてクラブへ向かった。


扉を開くとうるさい音楽が流れてくる。最初にもらったチケットは開始早々ジーマになって私の胃の中に消えていった。

後はカウンターの隅で暇そうに座りながら適当な男と目を合わせては微笑んどけばいい。

そのうち第一号が来て3つ位の選択肢から一つ選んだように言葉を放つ

1「一人で来てるの?」
2「踊らないの?」
3「一緒に飲まない?」

3が来れば楽だ。私は首を縦に振るだけで酒が出てくるシステムになっている。

1か2が来たら適当な会話を繋いで「もう少し酔っ払ってからにしようかな」そういえば勝手にお酒が出てくる。

便利なのはこれを4組辺りにしているとさすがのアホ達も私が酒をたかってるだけと気が付き、それ以上はつきまとっては来ないのだ。

たまに韓国人がパワープレイに走って来るが、困った顔をして自称ドSですみたいな雰囲気格闘家の男と目を合わせれば簡単に事は済む。

 

そんな事をしているとたまに良い男が居て、自宅へ上げても良いような気分になるがおまじないが発動することでそれを回避する。


一通りカモになりそうな男達から酒を頂き、そろそろ潮時かと思った時、ナンパが多いこのクラブには似合わないスーツの男と大量の女が入ってきた。

男は開口一番に大きく「好きなもの頼んでいいよ!」と気前の良いことを言った。

私もあやかろうと男に近付き、酒をねだった。

男は私を見ると、怪訝そうな顔をして困った様に言った。

「君は凄く僕の彼女に似てる。似てるけど違うんだ。だからあんまり長く居る気分には慣れない。よかったらこれでなんか飲んで」

そう言うと、私にそっと2枚の貨幣を握らせた。

彼に連れられて来た女がそれぞれ酒を頼み、バーカンから料金を請求されてる時、彼の姿はもう無かった。

私が彼に握らされた拳を開くとそこには2円が慎ましく鎮座して居た。

彼の事が凄く気になり急いで外へ出ると、彼の姿は既に遥か彼方へと消え入りそうだった。

見失わない様に彼の背中を見つめ、ハイヒールを脱ぎ私は全速力で走った。

「待って!」と大きな声で叫んだら、彼はいきなり異常に速いスキップを初め、颯爽と夜の闇に黒いスーツが溶けて行った。


ボロボロになった足の裏の痛みと、湿度の多い風に当たって思い出す。


今日はなにも起きない夜なのだ。


改めてヒールを履く気にもなれず、裸足で帰路を進んだ。

もし私がスニーカーを履いていたら彼のスキップに追いついたかもしれない。

今日の服装にスニーカーを合わせて想像してみるが、無いなと思い鼻で笑った。

帰宅し、BL本をタンスの中へとしまい、ベッドに入りケータイを確認する。大きい音に紛れて気が付かなかったみたいで昨夜のマグナムからメッセージが届いていた。

「チンコの写メは送れないけど、今度映画見に行かない?」


脈絡の無い文章に少し微笑んでる私はアホの顔をして居て、アホの夜にはアホしか居ないと少しだけ寂しくなった。

せめて夢の中だけでも、ストーカーが付くくらい、可愛い女の子になりたいと願いながら夜が明ける3秒前に私は眠りに着いた。