妄想シネマ

妄想都市計画

ローテンションオッハー


いい夢を見てた気がする。
内容はなにも覚えて無いけど、柔らかい夢で、凄く満たされた。目を開けなければもう一度見られるだろうか。

感覚的に無理だと言うことはすぐ分かる。こっから意識を飛ばすにはロボコップボブサップからの物理攻撃を要する。

諦めて目を開け、ソファに目をやると、なんか会ったことあるような女がタバコを吸いながら本を読んでいる。俺が起きたことに気が付き「おはよう」と声をかけてきた。俺は人差し指と親指で円を作り、自身の目の前に持って行き静かに指を広げた。


女はそれをみて微笑み、また本に視線を落とした。


うん。


なんでこの人俺の部屋にいるんだ。そもそも誰だ。


付けまつ毛もしてないし、チークも塗っていないのに人形みたいな顔をしたこの黒髪の女には見覚えがあるが、誰だったか全く思い出せない。よく行く店の店員と街ですれ違った時の様な「この人なんの人だっけ感」で僕の頭は支配された。


頭を整理するために今一度布団の中へ避難した。

昨日飲み過ぎた事は覚えている。酔い過ぎて繁華街で変な踊りをしたら女子大生達にやけに好評で、プチエレクトリックパレードを開催した。

その後そのプチエレクトリックパレードを引き連れてクラブへ行って「好きなもの頼んで良いよ!」と豪快に吐き捨てて、一銭も払わず帰った。

帰り道に背後から罵声と走る足音が聞こえたので大幅のスキップで加速して無駄に街を遠回りして帰宅した。

その後、そうだ。鍵が無かったんだ。

ポケットを探るも、未だエレクトリックパレード状態の脳内により鍵の捜索は断念された。

そのまま玄関前にヘタレこみ、意識はフェードアウトした。


それでこれだ。


布団を2度ほどポンポンと叩かれ、顔を出すとお気に入りの赤いマグカップを差し出された。

中にはまるで俺が作った様な配合のコーヒーがついであり「ありがと」と短くお礼を言ってコーヒーを啜った

それと同時に彼女の顔を見てみようとするけど逆光でよく見えない。

ベッドからソファなんて身を乗り出せば直ぐに行けるのになんだか体が重たくて、手が届かない彼女のことが凄く愛おしく感じた。

彼女は自分の分も入れたのか同じ赤い色をしたマグカップを手に取り熱を冷ますため、ふうふうと風を送る。

ああ、そうか。そういうことか。俺の家に赤いマグカップは1つしか無いし、この女は。

そこまで考えて、俺はまた布団に潜り目を瞑った。

 

次に瞼を開けた時、入ってきたのは十分すぎる日光で目の奥が酷く痛んだ。

体育座りを崩した様な体勢で床にへたって居て、背中には冷たい玄関のドアの感触があった。


痛む頭を抱えながら全身のポケットを弄ると胸ポケットから鍵が出てきた。

施錠を解き、自宅へとふらふら入ると、まるで自分のベッドの様に保有面積を最大にしながら寝てる女が1人。

巻いたまま寝た茶髪が絡まって酷い事になっている。

テーブルの上には赤いマグカップにつがれたコーヒーが8割ほど入っていた。

一口啜るとまだ温かい。

どうやらつい今し方まで俺の帰りを待っていたらしい。

ソファに腰掛け、読みかけの本を手に取り、タバコに火をつけた、目線を感じてベッドに目をやると半年前になんとなく付き合い始めた彼女が半分瞼を開けていた。

おはようと声を掛けると、彼女は人差し指と親指で円を作り、自身の目の前に持って行き静かに指を広げた。

昨晩よく行く飲み屋の人形みたいな店員に振られた話は黙っておこうと思ったら顔が緩んでしまって、慌てて俺は本に顔を落とした。