妄想シネマ

妄想都市計画

化粧落としを持っていたら彼女にすごく怒られた

この前彼女が久しぶりに家に泊まりに来たんだけど俺が風呂から上がったらめちゃくちゃ機嫌悪いの

なんで怒ってるんだよーって甘えてみても「触んなっ」って涙目で払われるの

ビール飲みたかったけど酔ったらいけない気がして、しぶしぶ麦茶で我慢して髪乾かしてたら

すごい勢いで背中に物投げられて、背骨と背骨の間の繊細なところに当たって神経が傷付いたらどうするんだ!

 

って怒ろうと思ったらコロコロって化粧落としが転がっててさ

「なんで化粧落としがあんたの部屋にあるの、浮気だ、絶対浮気された、どこの女とちちくりあったのか白状しろ!」って半泣きで罵られたよ。

とりあえず彼女をなだめて、数日前の話をしてあげたわけ。

あれはこの前、会社の忘年会があった夜の話なんだけど、俺はもうへべれけに酔ってしまって

一人で居酒屋を抜け出して夜の街をフラフラと歩いてたわけ

コートもジャケットも居酒屋に忘れて真冬の夜中にシャツ一枚で寒い寒い言いながら。

体力も気力も限界になって路地裏で座り込んじゃってタバコ吸ってたの

そしたら数メートル先に仕事帰りのキャバ嬢と思わしき女の子数人が座り込んでキャーキャー言ってるの

気になったけど動く元気はなかったから、それをずっと眺めてたらどうやら猫がいるみたいなんだよね。

まだすごく小さい猫で、だけど丁寧に首輪はついてて、それを可愛い可愛い言いながらキャバ嬢達が撫でてるの。

猫羨ましいなーって思って俺も死にそうな声で「にゃー」って鳴いてたらキャバ嬢達に見つかってさ

チラ見されただけで完全に無視されたんだけど、猫がフラフラ俺の方に歩いて来て腹の上に乗って眠たそうに丸まってるの

そしたらキャバ嬢達も俺の近くに来て「その顔どうしたんですか?」とか「なんか野良猫と酔っ払いって似合うー」とか、心配と罵声と卑下が混ざった言葉を投げられた気がするけどキャンキャンうるさくて良く聞き取れなかった。

しばらくすると飽きたのかキャバ嬢達はどっかにいって、糞寒いなかでバカみたいに出してる足が去りゆくのを見て、また「にゃーん」って呟いたら、お腹の猫もにゃーんって鳴いて、こいつもオスなのかなーとか考えてた。

子猫だからまだ毛が短くて寒そうにしてたから家に連れて帰ってやろうかなって思ったけど、首輪見たら住所が書いてあって、そこから歩いて10分位の場所だったから連れていってあげることにしたわけ。

シャツの中に猫居れて妊婦の気持ちでフラフラ歩いて

そろそろ空が明るくなり始めて、酒に頭をやられてない通行人からはすごく変な目で見られたけどこっちは酔っ払ってるからノーダメージでさ

ようやく目的地についたら家の中からおばあちゃんが朝刊取りに出て来て、なんとなく直感で飼い主っぽいな!って思ったから腹から猫だして「お連れしました」って渡したの。

そしたらばあちゃんは俺の顔見て笑いながら「ありがとう、ちょっと待っててね」って家の中に戻っていって、猫も一緒に行っちゃってさ

出てきたばあちゃんは1000円と化粧落としくれて、寒いからタクシーで帰りなさいって、タクシーまで呼んでくれて

言われるがままに俺はタクシーに乗り込んだんだよ

玄関で猫がにゃーんって鳴いてたけど、俺はもう返事もしないで運転手に住所を伝えてさ

帰りの道中、運転手が罰ゲームかなんかですか?って聞いてルームミラーを貸してくれたから、ようやく顔にピエロの落書きをされてたことを思い出して酒も抜け始めてたからか、少し恥ずかしったよね。


そのとき貰った化粧落としがコレ。

これで誤解はとけたかな。


「わかった。化粧落としはもういい。じゃあ次はこの乳液と、ビューラーと、この長い髪の毛について説明して。」


浮気なんてするもんじゃないなあと思ったし、俺そもそも彼女居ないし。